子育て政策の財源に健康保険料を充てることの問題点はどこにあるのか(写真:bluet /PIXTA)
子育て政策の財源として、健康保険料を引き上げる案が浮上している。とんでもない筋違いの発想だが、実は、同じ制度がすでに年金制度に存在している。今回の案は、不合理な財政制度を拡大しようとするものだ。
昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第92回。
子育て政策財源に、とんでもない筋違いの発想
3月末に公表された政府のこども・子育て政策には、数兆円の財源が必要であり、その大枠は、6月の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)までに示される予定だ。4月7日に「こども未来戦略会議」が発足し、議論が始まった。
政府部内では、健康保険に財源を求める考えが浮上しているようだ。しかし、これはとんでもない発想だ。およそ筋違いのところに負担を求めようとしている。
こども・子育て政策の内容を考えれば、その財源は税でなければならない。税は、特定の便益を得られるから負担するのではなく、国民の義務として負担しなければならないものだ。ところが、社会保険料は、これとは性格が異なる。
医療保険制度は、将来あり得る医療費支出のリスクを加入者でプールするための仕組みだ。したがって、ここで集められた保険料を他の用途に用いることは許されない。
「子育て政策によって将来若者が増えれば、医療制度を支えられる」と言われることもあるが、そうした論理は成り立たない。仮に子育て政策で出生率が上昇しても、その人たちが保険料を負担できるようになるのは、何十年も先のことだ。それに対して、医療費の支出は明日にでも起こることである。
医療保険の保険料を医療費以外の目的に使えば、医療保険制度を根底から破壊することになる。
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2023-04-15 23:00:00Z
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