[東京 1日 ロイター] - 3月全国企業短期経済観測調査(日銀短観)では、製造業の業況判断DIが前回調査から7ポイント悪化するなど、事前予想を超える悪化を示した 。ただ、非製造業の悪化は小幅にとどまり、注目された19年度の事業計画も底堅くスタート。設備投資や個人消費など堅調な内需に支えられている間に海外経済の回復を待つという日銀のシナリオは維持される内容と言える。日銀は引き続き、外需の弱さの広がりや深さ、設備投資への波及などの点検を続けることになる。
日銀は、景気を点検する上で、1―3月の輸出・生産と来年度の設備投資計画に注目しており「ポイントはそこに尽きる」(幹部)と言い続けていた。中国をはじめとする海外経済の減速で輸出がどの程度影響を受け、それがどの程度の生産減となり、設備投資抑制につながるか。29日に公表された2月の鉱工業生産速報はプラス1.4%となり、4カ月ぶりに上昇した。しかし、反発は弱く、1―3月期の生産が昨年10―12月期を上回ることは難しい状況だ。落ち込みが激しかった対中国向け輸出は、1―2月を均して6.3%減となっている。
今回の短観では、中国をはじめとする世界経済の減速がDIに明確に現れた。なかでも、中国の需要と密接に関連する電気機械は前回調査のプラス21からプラス9へ、生産用機械は同プラス40からプラス31へ、汎用機械は同プラス47からプラス20へと大幅に悪化した。
製造業の悪化については「海外経済の減速を受けてIT関連や設備投資関連、自動車関連で需要が減少したとの声が幅広く聞かれた」(日銀幹部)。海外需要減少の背景には、貿易摩擦の影響の可能性を指摘する声も聞かれたという。
米中貿易交渉が決着をみないなかで、企業の輸出に対する不透明感は強い。19年度の大企業製造業の輸出計画は、前年度比0.5%増と、18年3月調査時の18年度計画が1.3%増だったことと比べても、慎重な計画となっている。電気機械の先行きDIもプラス7へ、生産用機械も同プラス22へと、一段の悪化を見込んでいる。
三井住友銀行チーフストラテジストの宇野大介氏は「今回の短観の景況感は、欧州や中国経済の減速、通商戦争の悪影響が前面に出ているが、日本経済の景気循環における局面変化に伴って、センチメントが停滞している事にも目を配りたい」と話している。
一方、SMBC日興証券チーフエコノミストの牧野潤一氏は「半導体の最終需要である携帯電やPC・サーバーは、そのサイクルからみて、年央頃には底入れしそうだ。半導体製造装置は既に底入れしている」とし、輸出や景況感は年後半には上向いていくとの見方を示している。
製造業の大幅悪化に対して、大企業非製造業は、足元で3ポイントの悪化、先行きは1ポイントの悪化など、悪化は小幅にとどまった。また、中小企業の非製造業の足元は1ポイント改善した。
さらには、19年度の計画も底堅いものとなった。大企業全産業の経常利益計画は1.3%減と、18年3月調査時の18年度計画のスタートの2.2%減を上回っている。大企業全産業の設備投資計画も1.2%増と同2.3%は下回っているものの、2000―17年度の平均を上回る水準でのスタートとなった。特に、大企業製造業の設備投資計画は6.2%増と昨年の4.9%増に比べても高い水準になっている。
みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「現時点では設備投資に腰折れ的な悪化が起きているという訳ではなく、しっかりとした数字が並んでいる」と評価している。
日銀は、3月の金融政策決定会合で、生産や輸出の判断を引き下げたほか、景気の総括判断は「緩やかに拡大」を据え置きつつも、「輸出・生産面に海外経済の減速の影響が見られるものの」という文言を付け加えた。ただ、会合後の会見で黒田東彦総裁は「内需は堅調に推移しているし、先行きも、緩やかな拡大を続けるという中心的な見通しは維持している」と内需の強さを強調。そして、年後半には、中国や欧州の成長率が回復してくるというシナリオを描いていることを説明した。
「所得から支出への前向きの循環が働くという景気拡大の基本的なメカニズムに変化は生じていない」と言い切った黒田総裁。その後に出てきた重要指標のひとつ、日銀短観では内需の底堅さが確認された格好だ。
ただ、みずほ証券の上野氏は「海外経済の減速や消費税率引き上げの影響が見込まれる中、心理面ではなお警戒される部分があり、設備投資計画もこの先は下方修正されやすい」と、先行き慎重な見方を崩していない。4―5月は上場企業の決算発表、1―3月期のGDP発表と続くなかで、日銀は、外需の落ち込みと内需への波及の有無の点検を続けることになる。
清水律子
https://jp.reuters.com/article/boj-tankan-policy-idJPKCN1RD15N
2019-04-01 10:21:00Z
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