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産地にいったい何が?「チョコレート危機」の実態 - au Webポータル

(写真:フォトミー/PIXTA)

世界中の企業がカカオ豆をめぐって争奪戦――。チョコレートの原料、カカオ豆の価格が高騰していることは、チョコレートメーカーなど多くの企業にショックを与えている。カカオ豆はこの1年で価格が3倍にも跳ね上がっているが、これが続くと何が起きるのだろうか。

主要産地での天候不順などで不作に

カカオ豆の先物価格は3月末にニューヨーク市場で1トンあたり1万ドルを突破、過去最高値を更新した。ロンドン市場でも同じく、価格が急騰している。

なぜここまで、カカオ豆の価格が上がってしまったのか。主な理由は、カカオの不作にある。

世界の主要なカカオ生産国、西アフリカのコートジボワールとガーナでは、天候不順によってカカオの収穫量は前年比3〜4割減少。ガーナでは干ばつでカカオの木が枯れ、大雨による洪水で農地がダメージを受けた。気候変動によって、新たな病害虫の被害が現れ、カカオの病気も増えている。

日本が約8割のカカオ豆を輸入する国、ガーナで育つカカオ(筆者撮影)

もう1つ、生産国の財政状況の悪化も一因とされる。2022年12月に、ガーナは事実上のデフォルト(債務不履行)に陥った。ガーナでカカオを管理する政府の機関「ココボード」の活動が融資や運営資金不足によって一部滞った、という情報もある。国からの農家へのサポートがなければ、必要な肥料が届かない、カカオの病気をなおせない、といった問題が起きる。

「世界中が驚いている状況です。カカオ豆の価格も問題ですが、そもそも量が減っているので、世界中の企業が争奪戦みたいになっています」と話すのは、カカオ商社・立花商店の生田渉さんだ。

生田さんは、カカオを各国から買い付ける仕事をしている。世界からカカオが減っても、チョコレートメーカー各社は、消費者のニーズを満たすため、なんとしてもカカオを確保しなくてはならない。

おなじみのチョコレートも相次ぎ値上げ

日本でおなじみのチョコレートも、値上がりしている。森永製菓は4月1日の出荷分からチョコボールを6.5%値上げ。ネスレも3月1日出荷分から「キットカット」の主力製品を約15~17%値上げした。

明治は「明治ミルクチョコレート」「アポロ」などを、6月1日出荷分から出荷価格を約3〜33%値上げ、「きのこの山とたけのこの里袋」は、6月25発売分から内容量が12袋入りから8袋入りになる。

企業によっては、過去に購入したカカオ豆の在庫を使い、しばらくは価格を維持できる。しかし在庫がなくなり次第、新しいカカオ豆を調達するため、商品価格を上げざるを得ない。資材や物流コストの上昇に加えて、円安の影響もある。さらなるチョコレートの値上げが予想される。

しかし、そうなると、私たち消費者は心配になってしまう。もはやいつものチョコは、いつものように買えないチョコになってしまうのだろうか?

明治 グローバルカカオ事業本部の宇都宮洋之さんに尋ねると、「カカオ豆の価格が不安定なので、商品価格はまだはっきりしません。カカオ豆の需要と供給バランスが崩れ、供給が足りない状況なので、カカオ豆を大事に活用する必要が出て来ています」と回答。

その上で「高カカオチョコレートはカカオ豆を使う量が多く、影響は大きくなりそうです。ただし、今この状況に対応するため、世界中でキャラメルやナッツ、フルーツ、クッキーなどを活用し、商品の設計を見直す動きが出ています。おいしさと満足感をどう提供できるか、メーカーの力が試されることになりそうです」と話す。

ガーナでは後継者不足の問題も

ところで、チョコレートの主原料、カカオをよく知る人は、どれくらいいるだろう。カカオは、バナナと同じようなトロピカルフルーツだ。野菜と同じ農作物なので、もちろん天候に左右される。

筆者は昨年末、取材でガーナの農家を訪れ、農家の人々の話を聞いた。「土地が痩せたのか、気候変動のせいかわからない。カカオがあまり実をつけなくなってしまった」「干ばつでカカオが枯れてしまったんです」。そういって肩を落とす農家の人々の表情が、忘れられない。収入が不安定なので「カカオ農家を子どもには継がせたくない」いう声も多かった。後継者が不足しつつある。

カカオの実を割ると白い果肉に包まれたカカオ豆が入っている(筆者撮影)

フランスの製菓用高級チョコレートブランド、ヴァローナ社も2024年春から商品を値上げする。「チョコレート全体の値段はやはり高くなると思います。ただ市場に出ている今までのチョコレートやカカオ豆の価格が低すぎたのではないでしょうか」と話すのは、ヴァローナ ジャポンのアントナ・ナジブ社長だ。

「この危機を通じて、チョコレートの世界をより良くより持続可能なものにするために、チョコレート業界全体がそれぞれの立場で、果たすべき義務や役割を考える機会になるのでは」

カカオの実はラグビーボールのような形をしている(筆者撮影)

すでに、世界中の多くのチョコレート関連企業が、産地や生産者に対して、市場価格以上の上乗せ料金を支払っている。それでもなお、生産者が十分に食べて行けない産地がある。カカオ農家の仕事は、栽培、収穫、発酵、乾燥とプロセスが多く、重労働をともなう。

「洪水などで農園がダメになって、もう一度木を植えるとしても、カカオは実をつけるまでに5年、土地の整備も入れて6年はかかります」(生田さん)

カカオ豆高騰は「産地の問題」に目を向けるきっかけに

カカオ豆の高価格が続けば、消費者の私たちは悩ましい。しかし一方で、生産者にはメリットがある。収入が増えれば、貧困から抜け出せる。労働に見合う収入になれば、後継者も増えるだろう。

「今回のカカオ豆の高騰は、日本の消費者が最終製品であるチョコレートだけではなく、産地が抱える問題などにも目を向ける1つのきっかけになるかもしれないと捉えています」(ネスレ日本 平松拓也さん)

チョコの値上がりにつながる歴史的なカカオの価格高騰は、世界中の人がチョコレートを、新たな視点で見つめ直すきっかけになるかもしれない。

(市川 歩美 : チョコレートジャーナリスト/ジャーナリスト)

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2024-04-07 00:40:00Z
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