中国経済は2車線だ。国内の苦境について先行きの思わしくない暗いニュースが流れる一方で、世界を圧倒する製造業の勢いに各国で懸念が高まっている。
15日に発表された4-6月(第2四半期)の国内総生産(GDP)は前年同期比4.7%増と、5四半期ぶりの低成長となった。不動産不況が続く中、6月の小売売上高は前年同月比2%増と予想(3.4%増)を大きく下回った。
だが、6月の工業生産は同5.3%増と予想(5%増)を上回る伸びを記録。このことは、中国共産党の習近平総書記(国家主席)が長年追求してきたテクノロジー主導の「質の高い成長」が、実際に成果を上げ始めていることを示唆している。
中国の4~6月GDP、予想下回る4.7%増-5四半期ぶり低成長
日本や米国が住宅市場の低迷で深刻な経済的打撃を受けたのに対し、中国はハイテクセクターを強化し、それに伴う輸出ブームによって、1-6月の成長率は5%と、政府の年間目標である5%前後に沿った水準となった。
中国共産党の第20期中央委員会第3回総会(3中総会)が15日、北京で開幕したが、習指導部はこの流れを維持する決意を固めている。3中総会は基本的に5年に一度開催され、長期的な経済計画を策定する共産党の重要会議だ。
大きな問題もある。低調な小売売上高が示すように消費者の経済に対する信頼感は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以前の水準に全く戻っていない。
中国経済が強靱(きょうじん)さを維持している主因は安価な電気自動車(EV)やソーラーパネルの輸出だが、中国の工業力による雇用喪失の新たな波を懸念する欧米各国の政府から保護主義的な反応を引き起こしている。
ただ、欧米のこうした対応は、貿易や軍事を巡る緊張が悪化しても足かせにならないよう、高度な半導体など戦略的分野で自立するという習氏の決意を強めるだけだ。
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の独自分析によると、米国が主導する中国抑止策を中国政府がはねのけ続けることができれば、ハイテクセクターがGDPに占める割合は2018年の11%から26年までに19%に上昇する。
中国ハイテク部門、26年までに不動産に匹敵する成長エンジンに-BE
中国はEVとバッテリー、ソーラーパネルを経済の「新3大」エンジンとしており、この3つを組み合わせると、GDPに占める割合は26年までに23%に増え、24%から16%に縮小すると見込まれる不動産セクターの穴を埋めるには十分過ぎる。
BEの舒暢、エリック・チュー両エコノミストは「中国の見通しに対する悲観論は理解できるが、行き過ぎ」だとし、「政府は大きなリバランスを行おうとしている可能性がある」とみている。
徐州
江蘇省徐州は北京と上海のほぼ中間に位置する人口900万人の都市だ。10年ほど前まで、石炭や鉄鋼、セメントなどの重工業が中心で、不動産も重要な役割を果たしていたが、習氏の政策に沿った転換に取り組んでいる。
徐州は15年、中国本土の他の多くの都市と同じように住宅地の再開発を始め、不動産投資や家具などへの支出に絡む5年に及ぶブームに沸いた。
だが、その後、債務残高の急増を懸念した当局がブレーキをかけた。徐州は他のいわゆる「2級」都市同様、21年以降、住宅価格が半分以下になった地域もある。
天然資源が枯渇した徐州は、炭鉱や鉄鋼工場も閉鎖。代わりに3つの分野に目を向けている。新素材と建設機械、新エネルギーだ。
世界2位のポリシリコンメーカー、GCLテクノロジー(協鑫科技)は技術的なブレークスルーを経て、ドイツのシーメンスが開発したプロセスで製造されるインゴットに比べ、生産に必要な電力が約80%少なくて済む粒状シリコンを手がけている。
その結果、二酸化炭素排出量を削減し、コストを下げ、生産量を増やし、市場シェアを拡大することができた。同社によれば、過去5年間で徐州では5000人を超える雇用を創出し、450社以上のサプライヤーを育成し、地元グリーン産業の重要な原動力となった。
これは習氏が17年10月、5年に一度の共産党大会を機に呼びかけた改革だ。
「1960年代以降、100を超える中所得国のうち、高所得国になることに成功したのは12カ国だけだ」と習氏は2017年12月の経済会議で触れ、「成功した国々は全て、急速な拡大期を経て、経済成長の量から質への転換を経験した。停滞した国、あるいは後退した国は、その根本的な転換を達成できなかった」と述べた。
模倣から凌駕
好景気後の不況に入った不動産サイクルや新型コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)、そして世界経済が本格再開したことによる製造業の急成長を経て、習氏の後押しは持続し、「新たな質の生産力(新質生産力)」を育む運動に拍車がかかった。
低迷続く中国株どうなる、共産党「3中総会」-注目すべき4つの点
医療や先端機器、IT(情報技術)、通信機器・サービス、研究開発などのハイテク産業に関連するGDPは18-23年に平均12%拡大し、名目GDP成長率の7%を大幅に上回った。BEの予測は、これらの産業が現在の成長ペースをほぼ維持できるという前提に基づいている。
中国の政府機関に助言するシンクタンク、国家金融・発展実験室のリウ・レイ研究員は、少なくともあと10年間はテクノロジーの進化が優先されると分析。「中国は今、模倣から凌駕(りょうが)へと向かっており、そのためには政府の助けが必要だ。その支援は、比較的成熟した市場環境が整い、中国が重要な産業で主導的な地位を得るまで続く必要がある」との見方を示した。
エコノミストらは政府の目標である成長率5%の達成が不可能になった場合、さらなる景気刺激策を講じる余地があると述べている。だが、中国指導部は習氏が過去に「怠け者」を生むと批判した需要サイドの福祉国家的な政策ではなく供給サイドの政策に固執している。
つまり、世界銀行や国際通貨基金(IMF)などが言う消費主導の経済へのリバランスは、今のところ後回しになっているということだ。
中国政府の顧問らは、高度な製品の供給を増やすことが消費者の所有欲を刺激し、その製品を作るために支払われる給料が上がれば、労働者にそれを買う手段を提供できると考えている。
GCLは徐州で、建機メーカーの徐工集団工程機械や米キャタピラーなどと共に高賃金の仕事を提供。世界トップのEVメーカーである比亜迪(BYD)は徐州に2つの工場を建設中で、さらに質が高いとされる仕事が増えつつある。
中所得国のわな
ただ、中国で最も著名なエコノミストの一人であり、政府顧問も務める李稲葵氏は、テクノロジー推進によって企業に向かう資金が増え、消費者の取り分が減ることを懸念している。
これは、多くの先進国で見られるように、所得の不平等を悪化させ得る。李氏は大規模な雇用喪失の可能性を防ぐため、特定の職業における人工知能(AI)の使用を制限する提言に取り組んでいる。
テクノロジーは「ニュースや会計、法律、広告のような分野で、文字通り人に取って代わりつつある。そこには緊張とジレンマがある」と李氏は話した。
「質の高い成長」という概念の広さと曖昧さは、それをどのように測定するのか、またその測定が正しいかどうかをどう判断するのかを巡る地方政府間の競争を加速させている。
GDP単位当たりのエネルギー消費量から、人口1万人当たりで利用できる公衆トイレの数まで、50近くの指標を特定したところもある。
実際、「質の高い成長」は、中央・省政府レベルの経済活動のほぼ全ての側面において、中心的な指針となっている。記者会見や注目されるイベントの際、閣僚たちは「質の高い成長」を達成するために何をしているのかを説明しようと躍起だ。
中国人民銀行(中央銀行)もこれに従い、グリーンエネルギーやハイテクといった分野に資金を投入する的を絞った政策手段を次々と打ち出し、財政省は研究開発に多くの資金を投じている。
ブルームバーグの分析によると、習氏は23年に少なくとも128回、「質の高い成長」という言葉を口にした。今年に入ってからも、15日時点で66回言及している。
中国指導部にとって、それは経済だけの問題ではない。中国が重要な技術を米国およびその同盟国に依存したまま、米国との間で紛争が勃発するシナリオを指導部は恐れている。
指導部は35年までに「中進国」になるという野心的な目標を掲げている。この目標を達成するには、1人当たりのGDPを現在の1万2600ドル(約200万円)水準から2万ドル以上に引き上げ、年5%前後の成長率を維持する必要がある。
政策顧問らは、バリューチェーンを強化し、「中所得国のわな」に陥ることを回避した韓国のような国に触れているが、マッコーリー・グループの中国経済責任者、胡偉俊氏は、習氏の推進策を1990年代後半のアジア通貨危機後に重工業中心からハイテク中心へと移行した韓国と比較した上で、中国はより厳しい環境に直面しているとみている。
「中国がテクノロジー目標を達成できるかどうかの鍵は、テクノロジーそのものの変化のペースにある。AIや先進的な半導体の製造などが進歩するスピードが速ければ速いほど、中国がついていくのはより難しくなる」というのが胡氏の見立てだ。
原題:Xi’s Great Economic Rewiring Is Cushioning China’s Slowdown(抜粋)
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2024-07-16 05:45:54Z
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