連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質
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賃金が注目を集めている。しかし大多数の会社は賃上げできていないのが現実だろう。では賃金とはどのように決まるのか。多くの人が労使交渉によって決まるものだと考えているが、その考えは間違いだ。賃金水準の決定には、3つの要因が関わってくる。これらが改善されない限り、長期的に賃金水準が上がることはない。逆に改善されないまま無理にでも賃上げを行えば、その企業は淘汰される。
1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。
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賃金は労使交渉では決まらないワケ
物価が高騰したために、実質賃金は下がっている。2022年11月の実質賃金は、対前年比で3.8%の下落となった。労働団体の連合はこうした状況を改善するために、今年の春闘において5%を超える賃上げを要求する。対して岸田首相は、物価上昇率を超える賃上げを経営者に求めたいとしている。経営者は、こうした要請に対応したいとしている。
こうしたことを見てみると、賃金は政治家の要請や、その要請を経営者が受け入れるかどうかによって決められるような印象を受ける。つまり、交渉によって自由にどうにでも決められるように思われる。マルクス経済学の影響を受けた人々も、このような理解をしている。
つまり、経営者あるいは資本家は貪欲であり、労働者を搾取して企業の利益を増やそうとしている。そこでこれに対抗するために、労働組合を作って交渉力を強め、経営者や資本家と交渉して賃金を上げなければならないというのだ。
労働者と経営者との交渉が、現実の賃金決定に影響することは否定できない。しかし、そこで決定されるのは、ごく限られた範囲のものだ。
賃金はその関係によって決まるのであり、自由に変えられるものではない。したがって賃金を上げたいと思うなら、その条件を変えなければならない。この点が一般に理解されていないように思われる。この理解を欠いた議論は、賃金の引き上げに寄与しないばかりか、経済の効率性を害することになりかねない。
賃金の基本を決定するのは労使間の交渉ではなく、この先で述べるような経済的・技術的な関係である。
会計学と経済学で見た、賃金決定の違い
企業は、売上から売上原価を差し引いた額(これを「粗利益」という)を、賃金、利子、税などの支払いと、利潤に充てる。この額は「付加価値」とも呼ばれる(注)。したがって、賃金の総額は付加価値によって制約される。付加価値が多ければ賃金の総額を多くできるだろうし、少なければ少なくせざるを得ない。注)付加価値は賃金、利子、税などの支払いと、利潤の合計額だが、企業会計においては工場労働者の賃金の一部などが売上原価に含まれている場合もある。したがって、厳密にいうと付加価値と粗利益は一致しない。
ここまでは、経済学の話ではなく会計学の話だ。問題は、付加価値の分配だ。それは、労働者と経営者の交渉で決まるのだろうか? つまり、両者の力関係で決まるのか?
ここから、経済学の話が始まる。経済学は、そうではないと考えているのだ。賃金は労使が自由に決められるものではなく、経済的・技術的な関係によって決まると考えている。では、経済学上の賃金はどのように決まるのか?
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2023-01-15 22:02:43Z
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