急激な物価高騰が家計を圧迫する中、今月24日に事実上のスタートを切る令和5年春闘に向けた経営側と労働組合の交渉方針が固まった。労組の中央組織、連合が掲げる5%程度の賃上げ要求を後押しする形で、岸田文雄首相はインフレを上回る賃上げを要請。経団連も「賃上げは企業の社会的責務だ」と積極的に応じる。ただ、業績不振の企業やコスト高に苦しむ中小企業は経営資金に余裕がない。足並みをそろえる政労使トップの思惑とは裏腹に実際の賃上げ水準は物価高を超えられない雲行きだ。
「気が付けば主要先進国の中で唯一、賃金が上がらない国になり、国力が落ちて国民は貧しくなる一方だ。厳しい状況を反転させるには賃上げしかない」
東京都内で13日開かれた日本生産性本部のセミナーで、連合の芳野友子会長はこう訴えた。5%程度の賃上げ要求は28年ぶりの高水準で、基本給を一律に引き上げるベースアップ(ベア)が3%程度を占める。
経団連は経営側の交渉指針となる「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」を17日公表し、物価高を重視した賃上げを会員企業などに呼びかける構えだ。24日には経営側と労組が参加する「労使フォーラム」を開き、春闘が幕を開ける。
十倉雅和会長は10日の記者会見で、今春闘を「持続的、構造的な賃上げを目指した企業行動に転換する絶好の機会だ」としつつも、業績などに基づいて各企業が対応する「賃金決定の大原則」は不変だと強調。賃上げ水準は業種や企業で異なるとの認識を示した。
4年度の企業業績は過去最高水準が見込まれ、大幅な賃上げ方針を表明する企業も既に相次ぐ。だが、業績は業種で濃淡がある。野村証券によると、集計した19業種のうち経常増益は運輸、通信、自動車、電機・精密など14業種。サービス、鉄鋼・非鉄、金融など5業種は減益の見通しだ。
賃上げ率を巡る民間シンクタンクの予測は3%に届かない。ニッセイ基礎研究所は2・75%(うちベアは1%程度)と分析。経済調査部長の斎藤太郎氏は「賃金を一気に引き上げるのを躊躇(ちゅうちょ)する企業は多く、常時ではない今の物価上昇率をベアで上回るのは厳しい」と指摘する。このほか、第一生命経済研究所と日本総合研究所は2・7%と予想している。
実質賃金 続く前年割れ
世界第3位の経済大国でありながら、日本の賃金水準は先進各国の中で著しく低い。経済協力開発機構(OECD)によると、物価水準を考慮した「購買力平価」ベースでみると、2021(令和3)年の日本の平均賃金は3万9711ドル(当時の為替換算で約436万円)で、調査対象34カ国のうち24位。全体の平均(5万1607ドル)を20%余りも下回った。
伸び率も見劣りする。日本は1990年と比べて6・3%増にすぎず、2021年に1位だった米国はこの間に1・5倍、20位の韓国は1・9倍も伸び、日本は韓国に抜かれたままだ。
足元の実質賃金も前年割れが続き、物価高騰に賃金の伸びが追い付かない状況から抜け出せない。厚生労働省の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、令和4年11月の実質賃金は前年同月比3・8%減。下落率は、消費税率引き上げの影響が出た平成26年5月以来、8年6カ月ぶりの大きさとなった。
物価高も峠を越える気配がみえない。総務省によると、令和4年11月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比3・7%上昇で、40年11カ月ぶりの高い伸びだった。上昇は15カ月連続。円安と資源高を背景に食品や日用品、光熱費などの値上げが響いた。
先行指標となる東京都区部の消費者物価指数(中旬速報値、生鮮食品を除く)が12月は4・0%の上昇で、今月20日発表の12月の全国指数は上昇率が4%超になるとの見方もある。
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2023-01-15 10:37:16Z
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