JR東日本は28日、利用者の少ないローカル線の区間別収支を初めて公表した。開示された35路線66区間の全てが赤字で、うち東北関係は22路線44区間だった。最大の赤字幅は羽越線村上(新潟県)-鶴岡間の49億900万円。赤字額の合計は693億円に上った。収支の公表を基に、沿線自治体にバス転換や鉄道存続策を含む協議を要請する見通し。
公表対象は新型コロナウイルス禍の影響が比較的少ない2019年度、1日1キロ当たりの利用者を示す平均通過人員(輸送密度)が2000人未満の区間。営業距離は約2200キロで、管内全体の35%を占める。
赤字幅が大きいのは他に、奥羽線東能代-大館間(32億4200万円)、羽越線酒田-羽後本荘間(27億1100万円)、奥羽線大館-弘前間(24億3700万円)、津軽線青森-中小国間(21億6400万円)など。20億円以上は東北関係の路線が該当した。
100円の収入を得るために必要な費用「営業係数」は、千葉県内を走る久留里線久留里-上総亀山間が1万5546円で最も大きかった。東北では、花輪線荒屋新町-鹿角花輪間の1万196円が最高額。陸羽東線鳴子温泉-最上間(8760円)、磐越西線野沢-津川間(7806円)、津軽線中小国-三厩間(7744円)の採算性も悪かった。
国土交通省の有識者検討会が25日にまとめた提言で、国主導による鉄道の存廃協議入りの目安とした輸送密度1000人未満に当てはまるのは、28路線48区間。東北では20路線35区間が該当した。
JR東の高岡崇執行役員は28日の記者会見で「鉄道は大量輸送が前提で、インフラ維持には非常にコストがかかる。赤字路線だからといって即廃止ではないが、鉄道が最適ではないと考えられる区間があるのも事実」と指摘した。
バスやバス高速輸送システム(BRT)への転換が選択肢になりそうだ。鉄道を維持する場合でも、地元に運営費の一部負担を要請することもあるとの認識を示した。
地方路線の区間別収支は既に、北海道、西日本、四国、九州のJR各社も公表している。
持続可能な地域交通へ、人口減社会の街づくりと連動を
【解説】JR東日本が28日発表したローカル線の収支は、沿線自治体に厳しい現実を突き付けた。特に東北は人口減による厳しい経営を強いられており、不採算路線の一部は鉄路以外への移行が視野に入る。全国の赤字83線がバスに切り替えられるなどした国鉄民営化(1987年)以来の転換期を迎えた。
公表の物差しに使われたのが、1キロ当たりの1日平均乗客数を示す平均通過人員(輸送密度)。2000人未満は「鉄道サービスの維持が困難」とされる。公表された66区間のうち、少子高齢化が加速する東北が6割超の44区間を占めた。
初の収支公開に踏み切った背景には経営面の事情がある。新型コロナウイルス禍で、JR東の連結決算は2年連続赤字。ドル箱の首都圏の在来線や新幹線の収入が減り、赤字路線の穴埋めをする「内部補助構造」が崩れた。ローカル線の維持が難しいとする根拠だ。
鉄道事業者と歩調を合わせるように、国は調整を急いだ。国土交通省の有識者検討会は25日、輸送密度1000人未満を目安とし、国主導で事業者と自治体が路線の存廃を議論する新基準を示した。国の関与を強め、廃線を懸念する自治体に協議のテーブルに着くよう促す狙いがある。
国交省の担当者は25日の検討会で「人口減社会の中で、足腰の強い地域交通を再生する」と述べた。「鉄道」とせず、バスや高速輸送システム(BRT)を含む「地域交通」との表現に国の本音が見える。利用者が少ない鉄路は事実上、存続が基本線ではない。
東北では東日本大震災などの災害を機に、BRTや第三セクターへの移管など運行形態の見直しを経験した蓄積がある。自治体は鉄路の足元を見つめ直す機会と位置付けた上で住民を巻き込み、主体的に知恵を絞るべきだ。持続可能な地域交通の議論に、人口減社会の街づくりを連動させる視点が欠かせない。
(東京支社・吉江圭介)
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2022-07-28 21:00:00Z
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