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「原油先物価格初のマイナス」が暗示――“コロナ後”に価値が消滅する意外な業界とは - ITmedia

 今回のコロナショックでは、原油先物市場において全体未聞の事態が発生した。5月物の価格が一時、マイナス圏に突入したのである。これは市場の混乱に伴う一時的なものだが、その背景にはコロナ後の社会は、需要と供給の関係が一変するのではないかとの不安心理がある。今回の危機が一段落した時には、従来の価格や価値の概念が大きく変わっているかもしれない。

photo 原油先物市場、初の「マイナス価格」の衝撃(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

「初のマイナス価格」の衝撃

 4月20日の、ニューヨーク市場に上場する原油先物であるWTIでは、1バレルあたりの価格(5月物)がマイナス37.6ドルまで下落した。原油価格がマイナスになるというのは、これまでにあり得なかったことである。「価格がマイナス」と聞いてもピントこない人も多いと思うが、要は原油を買ってもお金を払う必要はなく、逆にお金がもらえることを意味している。

 では、なぜこのような事態に陥ってしまったのだろうか。重要なポイントは、マイナスになった商品が、5月を期限とする先物という点である。

 先物市場というのは、将来のある時点で商品を引き渡すことをあらかじめ確約した取引で、5月物の先物を購入した投資家は、5月末までその先物を保有していた場合、その商品(この場合は原油)を引き取らなければならない。逆に5月物を売った投資家は、代金を受け取ることで商品から手離れできる。

 通常、5月物の原油を購入した投資家は、それを事業会社に販売して利益を得ることになるが、5月時点でまったく原油の需要がなかった場合、誰もその原油を買ってくれなくなる。原油は保管に莫大なコストがかかるので、持っているだけで大きな損失になってしまう。

 つまり、あくまで5月に限った話だが、売れる見通しがなくなったことから、5月物を保有している投資家はお金を払ってでも引き取って欲しいと考えた。これが「価格がマイナス」になった理由である。

 当然、石油の需要が減少している理由はコロナショックだが、いくら新型コロナの感染が拡大したからといって、石油の需要が消滅するわけではない。しかしながら急激な経済の縮小で、5月という時期に限って言えば、原油を調達しようという人がいないので保有者はもてあましてしまったという図式である。6月が期日となっている取引を見ると、価格は暴落しているが、5月物のようなマイナス価格にはなっていない。

一時的混乱にとどまらぬ「ポスト・コロナ」の兆し

 つまり今回のマイナス価格は、コロナショックがもたらした先物市場の一時的な混乱ということになるが、それだけで話を済ませてしまうのは少々、短絡的である。これまでもリーマンショックなどの危機が発生した時には、原油価格は乱高下してきた。それにもかかわらず、なぜ今回は価格がマイナスという異常事態になったのだろうか。

 その理由は、長期的なスパンでは、もはや原油は重要な資源ではなくなっているという、大きな見立てが市場に台頭しているからである。

 近年、原油の採掘コストは上昇を続けており、以前のようにタダ同然で石油を掘れるという状況ではなくなっている。一方で再生可能エネルギーのコスト低下が進み、エネルギー供給全体に占める比率も顕著に高まっている。皮肉なことだが、中東の産油国は砂漠地帯で日射量も多いので太陽光発電のコストが低く、むしろ石油よりも安価にエネルギーを調達できる可能性も取り沙汰されている。

 加えて、コロナショックが終息した後には社会のIT化が一気に進み、グローバルな調達網(サプライチェーン)が見直されるとの指摘も多い。これまでの時代は、最もコストが安い地域から地球を半周してでも資材を調達するのが当たり前であり、人が直接各地域を行き来してビジネスに励んでいた。こうした環境だからこそ、LCC(格安航空会社)のビジネスが発達したともいえる。

 このような社会を維持するためには大量のエネルギーが必要となるわけだが、コロナ後にはビジネスのIT化や商品の地産地消化がさらに進み、エネルギーの需要は大幅に減少する可能性が高い。

 そうだからといって石油の需要がなくなるわけではないが、石油がないと何もできないという従来の価値観はすでに過去のものとなりつつある。こうした長期的な見立てが存在しているからこそ、一時的な混乱とはいえ価格がマイナス圏に突入するという異常事態が発生したと考えるべきだろう。つまり、価格がマイナスになるという今回の混乱は、ポスト・コロナ社会の予兆と考えるべきである。

大激変、まずは「不動産業界」に

 日本国内でもコロナ後には、従来の常識が一変する業界が出てくる可能性が高いのだが、その1つは不動産である。これまで繁華街やビジネス街の交差点に面しているビルの1階というのは、とてつもない賃料相場となっていた。銀行やコンビニ、飲食チェーン店など、あらゆる業界がこぞって、この場所に店舗を構えることを望んだからである。

 しかしコロナ後の社会では、銀行はさらに店舗網を縮小して サービスのIT化を進め、外食産業はデリバリー対応を強化するだろう。すでに店舗過剰が指摘されているコンビニも、同じ水準の店舗網を維持するとは思えない。そうなると、極めて高額の家賃を支払ってでも、交差点に面した場所に店舗を構えるという企業は少なくなり、こうした物件の相場は大きく崩れる可能性が高い。

photo 新型コロナの影響で既にUberEATSなど外食のデリバリー化が加速している(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 この話はたかが不動産の賃料とは考えないでほしい。不動産というのは私たちの生活に密接に関わっており、あるカテゴリーの賃料相場が変化すると、不動産の利用方法が大きく変わり、最終的には私たちのライフスタイルにも影響を与えるのだ。社会のIT化が高度に進んだ場合、不動産がどのように利用されるのか現時点で詳細に予測するのは不可能だが、思ってもみなかった変化が起こる可能性は高いと筆者は考える。

 今、休業要請で大変な状態となっているイベント関係も、コロナがいったん落ち着けば営業を再開するだろう。だが中長期的に感染症は事業における大きなリスク要因であり、この業界の基本的な価値観も大きく変わる可能性が高い。イベントの在り方が変化すれば、当然、私たちのライフスタイルにも変化が訪れるはずだ。

 このほか、テレワークの普及でスーツの需要がさらに減ったり、訪問営業という手法や、長時間の通勤も消滅に向けて動き始めるかもしれない。一連の話は、社会のIT化によって起こる変化と言われてきたものばかりだが、コロナをきっかけに一気に加速する可能性が高まっている。少なくとも、従来の「価値」や「価格」の概念はいったん、リセットするくらいの覚悟が必要だろう。

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2020-04-27 23:00:00Z
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