今回15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合で利上げ幅1%まで覚悟していた市場は、0.75%にとどまり安堵しているものの、7月会合では「データ次第で」1%利上げの可能性も捨てきれず身構えている。前回5月のFOMC後の記者会見でパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、0.75%の利上げは「議論のテーブルにのっていない」と明言された経緯もあり、「FRB不信症」は根深い。
とはいえ、「インフレ病」悪化にともない、0.75%でも1%でも荒療治が必要であることは認めざるを得ない。手術の痛みを恐れて処方箋程度の治療だけでは、回復がダラダラと長引く可能性が強い。現実的には、一定の景気後退も覚悟のうえで金融引き締め強化と対峙する姿勢への支持も目立ち始めた。0.25%や0.5%の利上げを続ける治療方針では不十分との認識に変化している。今回フェデラルファンド・レートの誘導目標は1.5~1.75%のレンジまで引き上げられたが、この程度の政策金利水準で年率8%を超えるインフレ退治をもくろむのは、いかにも力不足の感が否めない。そもそも今回の引き締めはインフレ病の「早期発見による予防」ではなく「悪化した症状の治療」である。
外野席に陣取るカリスマ投資家や経済学者たちからは「すみやかに2%ないし3%利上げに踏み切れ」との檄(げき)も飛ぶ。悩ましいのは、金融政策の効果には半年から1年のタイムラグがあることだ。結果的には引き締めが効きすぎることもあると記者会見でパウエル氏も語っていた。その場合の副作用が「不況」ではインフレと景気後退が同時進行するスタグフレーションになるので、「景気後退」にとどめることが重要だ。まさに「ドクター・パウエル」の手腕が問われる。ちなみに、不況の定義はマイナス成長が2四半期続くことで、このケースはハードランディング(急激な景気失速)とされる。これが景気後退程度で収まれば、まずまずの許容範囲内で、これをパウエル氏は「ソフティッシュランディング」と名付けた。今年の「ウォール街流行語大賞」候補の言い回しとなっている。
さて、パウエル氏は常に「データ次第」で決めると語るが、月次データで数カ月継続することが条件と明言している。その間、市場はインフレ進行の病状を見守るしかない。「金融政策の切れ味は鈍い」「精密器具のようなわけにはいかない」とドクター・パウエルに宣告されると市場の不安心理は高まる。
なお、今回のFOMC会合と記者会見を、バイデン大統領はハラハラ、トランプ氏はほくそ笑み、注目していたであろう。バイデン氏は劣勢の中間選挙、トランプ氏は2024年大統領選挙を視野に、支持率に大きな影響を与えるインフレ問題から目が離せない。
日本では、日銀の黒田東彦総裁の「値上げ許容発言」が問題視されたが、今回の記者会見では、パウエル氏が3.6%の失業率について、超過需要抑制のため、4%以上の上昇は許容範囲内と認識していることをただす質問も飛び出していた。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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2022-06-16 03:08:21Z
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