政府は、新型コロナウイルスの軽症者向け治療薬として、米製薬大手メルク社の経口薬(飲み薬)を日本国内で年内にも特例承認し、調達する方向で同社などと調整に入った。飲み薬タイプの抗ウイルス薬は自宅で服用できるなど扱いやすく、ワクチン接種とともに感染対策の切り札となる。今後の調整次第では年内にも国内で流通する可能性が出てきた。
政府関係者によると、年内調達を目指しているのは、メルクが開発する抗ウイルス薬「モルヌピラビル」。ウイルスが体内で増殖するために必要な酵素の働きを阻害する仕組みで、発熱やせきなどの初期症状がある患者が対象となる。1日2回、5日間服用することで重症化を防ぐ効果があるとされる。
菅義偉首相は先月の記者会見で、軽症者用の飲み薬について早ければ年内にも実用化するとの考えを示していたが、調達先などについては明らかにしていなかった。
同社は、米国内外の約1500人を対象とした最終段階の国際共同治験を今年春から始めており、日本も参加している。治験は今月中に終える計画で、11月にも米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可を申請する方針。認められれば、新型コロナ向けとしては世界初の飲み薬になる可能性がある。今月1日には、患者の入院や死亡リスクを半減させる効果があったとする治験結果を発表している。
米国政府は6月、170万人分を12億ドル(約1300億円)で購入する契約を結んでいる。日本も、医薬品の審査を担う独立行政法人「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」がメルク社側と臨床データなどについてやりとりを開始した。日本政府関係者は「米国で緊急使用許可が出れば、日本国内での申請を経て、年末には特例承認されるだろう」との見通しを示す。
国内で承認済みの軽症・中等症患者向けの治療薬はいずれも点滴薬で、医療関係者の作業が必要になる。一方、モルヌピラビルは自宅で服用できるため医療機関の負担が軽減されるとの期待もある。
新型コロナの飲み薬を巡ってはメルクのほか、スイス製薬大手ロシュや米国のファイザーなどが開発を急いでいる。日本国内では塩野義製薬が来年1〜3月の実用化を目指しているほか、富士フイルム富山化学も抗インフルエンザ薬を転用し、現在治験を進めている。【矢澤秀範】
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2021-10-03 10:22:00Z
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