ついにGDPが戦後最悪というレベルまで落ち込んでしまった。
4〜6月期実質GDP速報値は年率27.8%減。これはコロナによって輸出が減少したこともあるが、やはり「一億総自粛」でGDPの半分以上を占める個人消費が冷え込んだことが大きいという。となると、7〜9月期のGDPも目もあてられない惨状になるのは間違いない。
個人消費の冷え込みを避けるため、政府が「V字回復フェーズ」の目玉として打ち出した「Go To トラベルキャンペーン」はご存じのように壮絶にスベってしまっている。そこで苦しまぎれにすがった「ワーケーションの推進」も、すこぶる評判が悪い。つまり、「都市部に働く人たちのカネを地方で落とさせて個人消費を活性化させる」という政府の作戦がことごとく「惨敗」に終わっているのだ。ということは、個人消費に依存する7〜9月期のGDPも、かなり惨めな数字になっている可能性が高い。
ただ、文句を言ったところで始まらない。大切なのは過去の失敗を教訓にして、より実効性の高い経済対策へつなげていくことである。
Go To トラベルキャンペーンやワーケーションの惨敗から学べるのは、「従来のやり方はもはや通用しない」ことだ。これまで政府の消費活性化策といえば、「ポイントが付くのでお得!」というバラマキ型か、「これからはこんなスタイルが政府のオススメ」といったキャンペーン型が定番だった。しかし、コロナの恐怖で頭がいっぱいになった人々はどんなに札束で頬を叩かれても、ニュースやCMで扇動されても、なかなか思うように動いてくれない。「笛吹けども踊らず」なのだ。
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旅行意欲をそいでいるのは何か
これを踏まえれば、もっと本質的な経済対策をするしかないのは明らかである。個人消費を妨げている構造的な原因を突き止めて、それを政府の力で解決するのだ。
ならば、具体的にどんなことが考えられるのか。個人的に効果が高いと思っているのは、「レジャーや旅行を理由に学校を休む自由」を政府が公式に求めることだ。
「はあ? なにワケのわかんねえこと言ってんだよ」とマスクをしないで街を歩く人を見かけたときのような殺意を抱く方も多いと思うが、実は「学校」というのは、多くの日本人の消費意欲にブレーキをかけている側面もあるのだ。
厚生労働省の「平成30年 国民生活基礎調査」によれば、18歳未満の児童のいる世帯は1126万7000世帯で、全世帯の22.1%となっている。これだけ多くの家庭がレジャーや旅行に出かければ、すさまじい経済効果があることは言うまでもないが、現状はみんながみんなレジャーや旅行に金を落としているわけではない。
では、日本のファミリーの旅行意欲をそいでいるのは何か。『旅行年報2019』(日本交通公社)によれば、子育て中の女性が旅行に行けない理由として挙げたダントツ1位は「家族、友人等と休日が重ならない」(45.7%)。子育て中の男性も1位の「仕事などで休暇が取れない」(37.3%)とほぼ僅差で「家族、友人等と休日が重ならない」(36.6%)となっている。
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レジャーや観光でお金を落とす機会
これが「親の休日と学校の休日が重ならない」という問題を示唆していることは、『女性セブン』(小学館)が2018年に読者を対象に行ったアンケート結果を見ても、明らかだ。「学校を休ませて旅行に行く」という考え方に対し、「賛成」が40.2%、「反対」が59.8%。これは裏を返せば、日本の1100万世帯の大多数にとって、「旅行」は自分たちの好きなタイミングで行けるものではなく、「学校が休日」のみに行くことを許された娯楽だということである。
「子どもが学校をズル休みせず通うのは当たり前だろ!」というお叱りが飛んできそうだが、そんな「当たり前」が日本の個人消費の足を引っ張ってきたことは紛れもない事実だ。
学校が休みの時期にしかレジャーや旅行が許されないとなると、当然、観光地やホテルは同じタイミングで大混雑となる。一方、観光業者としては学校のある時期は閑散期なので、ここぞとばかりに稼がないといけない。これがファミリーが押しかけるシーズンに宿泊費などがドカンと上がるカラクリだ。
そうなると、割高感や混雑を嫌がって控える人たちも出てきてしまう。これは学校がボトルネックとなって、本音としてはレジャーや観光に行きたかった人たちの消費意欲をそいでいると言っていい。また、サービス業などで土日や夏休みを取得できない家庭の場合、なかなかレジャーや旅行にいけない問題もある。親が子どものためにレジャーや観光でお金を落とす機会を学校が奪ってしまっているのだ。
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昭和スタイルの一極集中型観光ビジネス
では、この「足かせ」を外せば、日本はどうなるか。
まず、消費が活性する。1100万世帯が自分たちのタイミングで、自分たちの好きな場所へ行けるので、これまで時間的、経済的な理由でレジャーや観光を控えていた人たちの背中が押される。これまでお盆休みのバカ高い宿泊費から家族旅行を敬遠していた人たちも、自分たちの予算に応じた旅行ができるようになるのだ。
また、観光地の「密」が解消される。このお盆休みに伊豆に行ってみたところ、熱海のサンビーチは普通に「密」で、東京、神奈川だけではなく埼玉ナンバーのクルマに乗って多くの子どもたちが押しかけていた。首都圏の公立学校の夏休みは短縮しているので、多くのファミリーにとって家族旅行はこのタイミングしかない。学校の休日がギュッと凝縮されて密になったことによって、観光地まで密になってしまい、感染リスクが高まるという皮肉な現象が起きているのだ。
各家庭が自分たちのタイミングで「夏休み」を取る自由を得れば、このような一極集中を起こりようがない。つまり、「遊びや旅行を理由に学校を休む自由」を認める施策は、Go To トラベルキャンペーンなどよりはるかに安全に、そしてはるかに効果的に、個人消費を盛り上げることができるのだ。
さらに、長い目で見れば、この施策は観光業者側にもメリットがある。実は今、日本の観光地では「観光客をいかに分散させるか」が喫緊の課題になっている。国内の団体観光や家族旅行だけに依存していた昭和の観光業では、繁忙期に観光客を短期間に一極集中させられるかが勝負だった。密をつくって効率的にさばく「海の家」のような稼ぎ方だったのだ。
しかし、人口減少でそのようなビジネスモデルは崩壊しつつある。団体ツアーや修学旅行にドップリ依存していた昭和の観光地は閑古鳥が鳴いて、外国人観光客からもそっぽを向かれているのだ。なぜこうなってしまうのかというと、気候や季節に左右される海の家ではいつまでたっても収入が安定しない。
経営も安定しないので設備投資が難しいし、優秀な人材を雇うこともできない。ということは、観光地としての魅力やサービスを向上させることが難しい。SNSやネットで口コミが一瞬で広まるこの時代に、そういう殿様商売が通用しないのは説明の必要もないだろう。
そこで、日本の観光地でこのような海の家型ビジネスモデルからの脱却が進められている。ゴールデンウイークや夏休みに集中して1年分の稼ぎを得るようなスタイルではなく、年間を通じて国内外から観光客が訪れるような魅力のある観光地を目指しているのだ。
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従来のやり方が通用しなくなっている
国内のファミリーが学校の休みに縛られることなく、通年で訪れるようになれば、観光客の分散が進む。地方の観光業も経営が安定して、地域の雇用や経済に貢献する優良企業へ成長していく。と言ったところで、教育関係者から猛烈な大反対がくることは間違いない。おそらくこんな感じのお叱りが飛んでくるのではないか。
「コロナの休校でただでさえ学習格差が出ているのに、学校を休ませられるわけがないだろ!」
「そんな理由で学校を休ませたら、ズル休みがクセになってロクな大人にならない!」
「休んだ後に勉強が遅れたら誰が面倒を見るのだ! 過重労働で死にそうになっている教師に余計な仕事を増やすな」
もちろん、ご指摘はごもっともだ。ただ一方で、コロナ禍によって子どもたちも修学旅行などの行事がなくなったり、部活の大会がなくなったりということで、日常から「娯楽」がなくなっている部分があるのも事実だ。そこに加えて、夏休みも短いのでどこにも遊びに行っていない家庭も少なくない。窓を開けた蒸し暑い教室で、汗だくになりながらマスクをつけて授業を受けさせるだけでは、子どもたちの心は疲弊する一方ではないだろうか。
「教育格差」も確かに深刻ではあるが、「旅行目的で学校を休む自由」を認めたくらいでは影響は限定的だ。文科省の調査でも公立中学に通う子どもの7割は塾に通っていることが分かっている。つまり、コロナ以前から勉強のできる子と、できない子の「格差」は存在しており、それがコロナでより明確になっているに過ぎないのだ。
また、親も学校も一丸となって子どもの登校を優先してきた割には、不登校が年々増加していることも忘れてはいけない。文科省の定義によると、中学生の不登校は全国で11万人だが、『子どもの“声なき声” 第2回「“不登校”44万人の衝撃」』(NHKスペシャル)によれば、「登校しても教室に入れない」「教室で苦痛に耐えているだけ」という、“隠れ不登校”ともいえる中学生が推計で約33万人もいることが明らかになったという。
やはりこれも「従来のやり方が通用しなくなっている」ことの証なのではないか。
日本の学校、特に公立学校は子どもに「個」を殺して、全体にフィットさせることを叩きこむことに重きを置く。だから、同じ制服を着て、同じルールに従わせる。体育では外国人が驚くような軍隊教育を施し、「前ならえ!」と整列をさせ、北朝鮮のマスゲームのような一糸乱れぬ同じ動きや人間ピラミッドもさせる。勉強ではとにかく同じ学習レベルを目指して勉強をさせる。このような「同じ」をやたらと求める教育に、子どもたちが悲鳴を上ている。その結果が、「44万人の不登校」なのではないか。
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遊びや旅行を理由に学校を休む自由
そこに加えて、「遊びや旅行を理由に学校を休む自由」を認める施策には、教育的な効果もあるのではないかと考えている。それは「人は違って当たり前」であることを教えることだ。学びや友人と遊ぶために学校に通うことは当然だが、一方で、この時期にしか休めないような家庭の都合がある場合、そちらを優先させてもいい。学校に通うことがあなたの人生の全てではない、という重要なことを教えるためだ。
マスクをしない人間もいれば、コロナにかかる人間もいる。自分とちょっとでも考え方が違うだけで口汚くののしり、匿名であることをいいことに会ったこともない人にSNSで「死ね」「消えろ」などと平気で言う。
われわれの大人世代はもうこのような「病」は治らないが、日本の未来を担う子どもたちはまだ間に合う。この「人は違って当たり前」ということを「遊びや旅行を理由に学校を休む自由」を享受することで身をもって学ぶことができる、と筆者は考えている。
Go To トラベルキャンペーンやワーケーションという従来のやり方が壮絶に上スベりしているように、教育現場のピンチもこれまでのやり方で乗り越えることは難しい。いや、むしろ「子どもは学校を1日も休まずに行けば、立派な大人になる」という古い価値観に固執してきた結果が、深刻な教育格差や不登校44万人という事態を招いていることを踏まえれば、これまでのやり方はゼロから見直すべきだ。
経済はもちろん、教育、医療、さまざまな分野で「そんなバカなことありえないでしょ」というくらい思い切った新しいアイデアが必要になっているのではないだろうか。
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2020-08-17 23:12:00Z
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