[フランクフルト/ベルリン 19日 ロイター] - ファンとモーターを製造するドイツ中堅企業の経営者、トーマス・ニュルンベルガー氏(55)は、中国子会社を取り巻く環境が厳しくなるのを見据え、対応を迫られている。
過去7年間にわたって中国事業は順調だった。だが、ドイツと中国の関係に緊張が走り、西側の対中制裁や台湾有事によって事業が混乱する可能性に備える必要が出てきたからだ。
多くのドイツ中小企業が今、中国依存を減らすための対応に着手しつつある。
ニュルンベルガー氏が経営するEbm-papst社は昨年、「デカップリング・チャイナ」と称するプログラムを立ち上げた。約1900人の従業員を抱える中国部門が、たとえ会社の他部門と切り離されたとしても事業を継続できるようにする準備を始めた。現在、インドに新工場の設置を計画しているのは、中国に依存せず、中国以外のアジア諸国の顧客に製品を供給するためだ。
「1つのかごに全部のたまごを入れてはならない、という教訓を常に胸に刻んでいる」と同氏は言う。
ドイツのショルツ政権は今年7月、ドイツ企業に中国への依存を減らすよう呼びかける「デリスク(リスク低減)」戦略を打ち出した。もっとも、拘束力のある目標や要件はほとんど盛り込まれていない。
中国はドイツにとって最も重要な貿易相手国だ。一部のドイツ大手企業は大規模な中国事業を継続しており、ドイツがデリスクにどれだけ真剣に取り組んでいるのか、疑問が生じている。
一方、ロイターがドイツ中小企業の幹部ら十数人に取材したところ、中国依存を減らすさまざまな取り組みが始まっていることが分かった。「ミッテルシュタント」と呼ばれるこうした中小企業は、ドイツの企業売上高全体の約3分の1を占める。
Ebm-papstのように比較的大きな企業の一部は、個々の事業地域が現地で資材調達と生産を賄えるようにするローカリゼーション戦略を採っている。実際のところ、同社は中国をまだ主要市場と見なしており、近く追加投資を決める可能性もあるという。
ドイツ商工会議所の幹部、フォルカー・トレアー氏は、中小企業は地政学的ショックが起こっても即時に対応できるだけの資源を持たないため、前もって慎重に準備する必要があると説明した。
ドイツ経済省は、中国以外への市場分散を進める企業を支える意向を表明。「インド、ベトナム、韓国、インドネシアといった国々とドイツの二国間関係を強化するのが狙いだ」とする声明を出した。
<強まる慎重姿勢>
中国は2016年にドイツにとって最大の貿易相手国となり、二国間貿易は3000億ユーロ近くに達している。自動車のフォルクスワーゲン(VW)(VOWG_p.DE)、メルセデスベンツ(MBGn.DE)、化学のBASF(BASFn.DE)など、ドイツ屈指の大企業にとって中国は主要な市場だ。
ショルツ首相は2021年の就任以来、前任のメルケル氏と一線を画す対中強硬路線を採ってきた。他の西側諸国でも、中国の台湾に対する姿勢、南シナ海での動向が攻撃性を増したことや、国内での経済統制色の強まりに警戒感が高まっている。
ただ、BASFなどの大企業は、中国市場の重要性を繰り返し指摘している。シンクタンク、IW研究所が公式データを分析したところ、今年上半期にドイツの対中投資は103億ユーロに達し、投資全体に占める割合も増えていた。
経済省はデリスク計画の一環として、貿易促進のための施策である貿易・投資保証について、単一国に投資する企業への保証に上限を設け、結果として中国投資への保証が急減した。政府は中国で開く貿易見本市の回数も減らしている。
IW研究所のエコノミストによると、こうした対策は大手企業よりも中小企業に大きな影響を及ぼしている。一部企業が市場を分散している兆しとして、ドイツ企業による対外投資のうち、中国を除くアジアへの投資の割合が増えている。
エコノミストらによると、家族経営の多い中小企業は大企業よりもリスク回避姿勢が強い。ドイツ中小企業協会のマシアス・ビアンキ氏は「ミッテルシュタントは自衛の必要性が高い。特に中国のように短期間で状況ががらりと変わる国では、自衛措置が重要になってくる」と語った。
<中国に代わる市場>
ドイツ企業にとって、中国に代わる成長機会を与えてくれそうな国の一つが、グリーン産業への補助が導入された米国だ。同国の「ニアショアリング(事業拠点の近隣移転)」の流れによって恩恵を受けるメキシコも有望だと、ドイツ産業連盟(BDI)のウォルフガング・ニーダーマーク氏は言う。
中国以外のアジア諸国も、同じ恩恵を受けそうだ。既にベトナムには、市場分散化の最初の波が押し寄せている、と財界関係者は語った。
ドイツの資産運用大手ユニオン・インベストメントのシニアエコノミスト、サンドラ・エブナー氏は「中国を離れると言う企業は、出てこないだろう」とした上で「増えているのは、中国では中国向け製品を生産し、他のアジア諸国、あるいは世界市場向けには中国の周辺国で地盤を築くという対応だ」と説明した。
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2023-10-21 22:19:00Z
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