ファーウェイの開発者会議「Huawei Developer Conference(HDC) 2020」の基調講演は、同社が米政府による禁輸措置に対してどのようにして対抗しようとしているのか、その方向を見極める上で重要なイベントとして注目されていた。そんな状況の中、同社はIoTデバイス向けとされていた独自開発のOS、Harmony OSをタブレットやスマートフォンでも使えるHarmony OS 2.0へと拡張し、年内にβテストを開始したうえで来年にも搭載スマートフォンを発売すると発表した。
昨年実施されたHDC 2019では、Harmony OSがIoT向けであることを強調していたファーウェイだが、米政府が強い姿勢で同社への規制を強めているため、独自プラットフォームを開発する方向へ舵を切ったと考えられる。ファーウェイの事業規模や技術力があるならば、高性能なOSを開発することは可能だろう。しかし、数100万本のアプリが流通しているAndroidの置き換えとするには、開発者に取って魅力的な市場形成が必要になる。
消費者は豊富なアプリが自由に使え、世の中にある大多数のサービスやデバイスとつながることを望むだろうが、そういった環境を整えるにはアプリの移植を促さねばならない。市場がないうちから移植を促すのだから、相反する要素をまとめていく困難をどう乗り越えるかが注目点だ。
Harmony OSをスマートフォンへ適用するというのは十分に予想できる戦略だが、越えるべき壁は極めて高い。では何を拠り所にファーウェイはHarmony OS搭載スマートフォンを立ち上げようとしているのだろうか。
HDC 2020の基調講演を通して感じたのは、”中国市場での支持”を基礎にAndroidよりも魅力的なプラットフォームを目指しているということだ。他の中国メーカーにとっても、ファーウェイの状況は他人事ではない。米国に首根っこを押さえられないよう、米国発の技術を含まないOSとアプリ環境をより新しい設計のOSとネットワーク技術で再構築することによって、他の中国企業や開発者の関心を集めようという考えなのかもしれない。
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ファーウェイの強みは中国市場での強力なユーザー基盤
改めて確認するまでもないかもしれないが、現在の流れからするとファーウェイへの米政府の規制が緩む可能性は低い。直近に米大統領選があるものの、ファーウェイへの規制は国家安全保障に関わる問題であるだけにあらゆる面で疑惑が晴れない限り、大統領が替わったとしてもすぐに規制は緩まないと考える。そして米政府がファーウェイへの規制を緩めない限り、ファーウェイはAndroid OSを利用することができてもGoogle Mobile Service(GMS)を利用できない。すなわちGMSが提供しているアプリやアプリマーケットはもちろん、GMSが提供する機能を呼び出して使っているアプリとの互換性も失われてしまう。
これに対し、ご存知のようにファーウェイはHUAWEI Mobile Services(HMS)搭載のAndroidスマートフォンを提供し、HMSに内包されているAppGalleryで互換アプリを流通させている。中国ではグーグルが事業を行っておらず、中国国内で流通しているスマートフォンにはGMSが搭載されていない。そのため、ファーウェイは中国向け端末に開発してきたコンポーネントを整理し、それまで構築していた独自のアプリマーケットなどを中国以外の国で使われているアプリへ対応するよう促すなどして、日本を含むGMS搭載が当たり前の地域でも端末事業展開を進めている。
しかし状況は芳しいとは言えない。日本でもLINEやNAVITIMEなどいくつかのアプリがAppGallery向けに移植、提供されてはいるが、新規開発のサービスやアプリには対応できず、IoTデバイスやスマートウォッチなどアプリとセットで動作するハードウェアの大多数で対になるアプリが動かない状況だ。それでもファーウェイがGMSなしで端末事業を続けていられるのは、巨大な中国市場をガッチリと押さえているため。中国ではもともとGMS対応の端末がないのだから、Googleの技術を搭載できなくとも従来通りの事業ができるわけだ。
中国は新型コロナウィルスの影響で第1四半期のスマートフォン出荷台数が前年同期比で18%も落ち込んだ。それでもカナリスの調べでは7260万台。ファーウェイはそのうちの44.1%となる3010万台と圧倒的なトップシェアであるだけではなく、毎年、その勢いが増している状況だ。
通年では3億2600万台と予想されている中国市場で、仮に同様のシェアを維持したとすると1億4372万台。このユーザー基盤をどう活かすかが、Harmony OSを立ち上げるうえでの鍵となる。
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中国市場での支持をどうグローバルに展開するのか
決して楽観的に見ているわけではないが、中国市場だけであればHarmony OSにも勝負できる目があるかもしれない。詳細は省くが、IoT向けに柔軟かつ低遅延の通信機能が統合されており、複数のデバイスに跨って一つのアプリが動作するため、コンパクトな設計で家電製品などにも組み込みやすいのではないだろうか。
中国は市場が大きいだけに内需向けに特化した家電メーカーやIoTメーカーも多く、ファーウェイと組みたいと考えるメーカーは少なくないだろう。どこまでの互換性、移植性があるのかは評価していないが、ファーウェイはOpen ARKというツールを用いることでAndroidアプリをHarmony OSに移植できるよう開発を進めており、アプリに関しても(中国市場をメインに事業としているIoTメーカーやアプリベンダーなら)ある程度は揃えられるはずだ。
ファーウェイは彼らがHMS Coreと呼ぶツールセットを通じて開発したAndroid向けアプリを容易にHarmony OSでも動作するように整備するようだ。まだ対応アプリは8万1000本にすぎないが、中国で使われているアプリを誘い込むことができるだろう。ローンチ時には数10万本に増えていても不思議には思わない。また、中国市場への進出を狙う中国国外のアプリ、サービスベンダーが対応してくるかもしれない。 いずれにしろ、”中国の中での話”であればファーウェイがHarmony OSへの移行計画をやり切ることは不可能ではないと予想する。
これをグローバルで展開するためには、(米国を除く国々で)Harmony OSを第三極のモバイルOSとして定着させていく必要がある。AppGalleryにおいては、その部分を泥臭く、ユーザーが望むアプリの移植交渉などを地道に行っている印象だが、全く異なるOSとなれば単に移植ツールを提供するだけでは済まない。Harmony OSが持つAndroidを上回る性能や機能を活かすには、移植ではなくそれらを用いたアプリ設計が不可欠だ。Android向けに開発しているアプリを移植するだけなら応じられても、Harmony OSを生かしたアプリを作ってもらうには相当数のインストールベースが必要となるだろう。
もし打開策があるとすれば、ハードウェアとOSをタイトに統合し、Androidスマートフォンでは到達できないようなユーザーインターフェイス、IoTとの連携、タブレットやPC、自動車などとの連動を実現し、また端末としても独自性が高い製品を提供することだろうか。
高性能な独自設計SoCの調達は可能なのか
ここでぶち当たる壁が、既存のファーウェイ端末と同様に高画質カメラなど独自性の高い機能を実現できるかどうかだ。これまでのファーウェイ端末は子会社のハイシリコンが設計する独自SoCの機能を用いることで差別化を図ってきた。ところが独自設計のSoCを生産委託していた台湾TSMCからの調達ができなくなったことは、前回のコラムでお伝えした通りだ。
ファーウェイは「Huawei Developer Conference(HDC) 2020」の基調講演で、(現在の場所に)留まらず歩みを止めることなく前進し、グローバルの開発者たちと開発成果を共有し、新しいエコシステムを一緒に作って行こう。成功はみんなと共有していくと呼びかけ、OSはもちろん、そのうえで動かすサービスやAPIセットのライブラリなども含めてオープンソースで共有していくとしている。ファーウェイが得意としてきたカメラ関係のライブラリセットやAR関連の技術などを共有するというのだ。
Harmony OSは、1つのアプリが複数のデバイスにまたがって自律的に繋がり、動的に遅延を調整しながらWi-FiやBluetoothなどを通じてネットワークを横断的に動作するアプリが作れるなど、なかなか興味深い機能を持ち、高速な独自のファイルシステムやデータベース、検索機能なども搭載する。
それらが魅力的だったとしても、統合すべきハードウェアの質が維持、あるいは進化できるのだろうか。独自設計のSoCを使い続け、進化させられるのか。「あてがあるから開発をやめない」のか「あてはないけれど戦い続けている」のか。年内にはその答えが出ているかもしれない。
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2020-09-11 12:21:02Z
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